INDEX
アナログからデジタルへ──月38,640枚の紙が消えた先にあるもの
「紙の指示書」で仕分けする作業員の姿は、もはや過去のものとなりつつある。2022年6月、ある大手食品物流企業とPALが締結した基本合意は、単なる業務提携ではなく、「アジアNo.1のプロセスセンター企業」を目指す壮大なビジョンの第一歩だった。
それから約3年──両社の協業が生み出した成果は、物流業界の未来を先取りする「実践モデル」として注目されている。
生産性116%向上の裏側にある「3つの排除」
この協業の核心は、「待つ・歩く・考える」という生産性を低下させる3大要因を徹底的に排除したことにある。
PALが導入したGTP(Goods to Person)ソリューションは、Amazonの「KIVA」システムで知られる自動搬送技術を応用したもの。
従来は作業員が倉庫内を歩き回って商品をピッキングしていたが、今では商品の方がAGV(無人搬送車)によって作業員の元へと運ばれてくる。
さらにDAS(デジタルアソートシステム)との連携により、店舗別の仕分けまで自動化された。
2023年9月と2025年9月を比較すると、処理物量は約110%増加したにもかかわらず、1時間あたりのパック生産性は116%向上。仕分け作業者数は逆に削減できた。
これは「人がやるべき仕事」と「機械に任せるべき仕事」の最適な棲み分けを実現した証だ。
140店舗への展開──拡張性が証明する真の成功
このプロジェクトの真価は、対象店舗の拡大という形で実証されている。PALが展開するT-sort AGV仕分けロボットシステムは、現在140店舗への出荷を効率的に処理している。
40台のロボット、6つのインダクション、137のシュートを配備し、最大1,700仕分け/時、平均1,360仕分け/時の処理能力を発揮。19時間/日、365日の連続稼働体制で、日々のピーク時には1便あたり19,000行、2便で2,000行という大規模な出荷業務を支えている。
工数削減は流し作業で851.46時間/月、受け作業で1,187.64時間/月を達成。生産性KPIは流しで1,997個/時、受けで1,605個/時、一次仕分けで8,537個/時に達し、月間売上高は2,120万円を記録している。
V字回復とノンストップ稼働──堅牢性が支える成長
T-sortシステム導入時、新システムの稼働直後は生産性が一時的に低下した。
しかし習熟期間を経てパック生産性は117%へと大幅向上。導入初期の一時的な痛みを乗り越え、V字回復を実現した。
この経験は、デジタル化が「即座に効果が出る魔法」ではなく、長期的な視点での習熟投資が重要であることを示している。
140店舗という規模での安定稼働を支えるのは、部分故障時でも全体停止しないシステム設計だ。従来の中央制御型システムでは障害発生時に全ロボットが停止するリスクがあったが、T-sortは個別のロボットが故障しても他のロボットは稼働を継続し、部分交換でリアルタイム復旧が可能な分散制御方式を採用。アンカー固定が不要で床工事なしでの設置が可能なため、レイアウト変更が容易。店舗数の増加や物量変動にも柔軟に対応できる拡張性を備えている。
この柔軟性こそが、対象店舗を段階的に拡大していく上での「成長を阻害しない基盤」となっている。
物流DXの専門家が、
データが「証明」する時代──全国へのトレーサビリティ
140店舗への展開を支えるもう一つの柱が、物流工程の完全なデータ化による「証明可能な物流」の実現だ。製造、入荷、出荷──すべての工程がリアルタイムでデータベースに記録され、「いつ・どこで・誰が・どのように」作業を行ったかが完全にトレース可能になった。
これにより、作業実績に基づく売掛・買掛の発生が根拠をもって確認でき、従来のような紙ベースの証明書は不要に。
PALが提供するダッシュボードを通じて両社が共通の画面を見ることで、確認の電話やメールも大幅に削減された。データが双方の「共通言語」となり、余計なコミュニケーションコストが消失した。
特に重要なのは、全国の販売店舗へのトレーサビリティが確立されたことだ。製造拠点から北関東、神奈川、西関東、埼玉、新潟といった各地域の配送拠点を経由し、全国のグループ会社店舗へと商品が届く流れが完全に「見える化」されている。
PALは物流作業の観点から作業情報を正確にトレースし、作業品質と安全性を「見える化」する仕組みを構築・提供。これが140店舗という規模での安定運用を支える「信頼の基盤」となっている。
環境への「定量化された」貢献
月間38,640枚──これは、データ化によって削減された紙の使用枚数だ。5年間で換算すると約232万枚に達する。この取り組みを環境負荷として定量化すると、二酸化炭素約11.6トン削減(乗用車約2.5台の年間排出量相当)、水資源約4,637〜30,139m³削減(一般家庭約23〜150世帯の年間使用量相当)という具体的な数字が浮かび上がる。
樹木換算では約232本──小学校の校庭1面分の森林に相当する環境貢献だ。
「サステナビリティ」が掛け声に終わりがちな中、データ化によって環境負荷を定量的に測定・削減している点は特筆に値する。そして、対象店舗が拡大すればするほど、この環境貢献効果も比例して増加していく。
デジタルトラックソリューションと製造能力の拡大
協業はセンター内にとどまらない。
2024年4月にPALが導入したデジタルトラックソリューション(DTS)は、長らくブラックボックスだった運送実態を可視化した。ドライバーがリアルタイムで運送状況を入力するモバイルアプリと、収集データを統合的に分析するダッシュボードにより、待機時間、CO₂排出量、法令遵守状況などの重要指標をモニタリング。PoC期間の60台から、現在は8社300台へと拡大した。
AI自動配車システムとの連携シミュレーションでは、車両台数を12%削減しながら積載率を77.4%から92.6%へと向上させる結果を得た。これはドライバー不足という社会課題への一つの解答でもある。140店舗への配送ルート最適化は、このDTSなくしては実現できなかっただろう。
さらに、2024年5月に稼働開始した新たな製造拠点では、前年比**147%**という製造数の大幅増加を達成。年間製造数は3,800万パックから5,600万パックへ、日平均製造数は104,000パックから153,000パックへと増加。この生産能力の向上が、140店舗という規模での安定供給を可能にしている。両者が同じダッシュボードを見ながら進捗をリアルタイム把握する体制により、物量増加にも柔軟に対応。製造能力の拡大と物流システムの拡張性──この両輪があるからこそ、対象店舗の継続的な拡大が実現できているのである。
継続的進化と拡大のプロセス
基本合意に掲げられた3つの柱──「双方を満足させる購買体験」「データでの物流運営」「スケジューリングに基づく全体制御」──は、着実に実現されつつある。
今後の展開として、全便コース化のPoC、運送経費の自動集計、店着証明書のペーパーレス化、さらなるダッシュボード機能拡張が予定されている。
そして最も重要なのは、この基盤がさらなる店舗拡大を可能にするという点だ。
140店舗という現在の規模は、決してゴールではない。システムの拡張性、データの透明性、運送の最適化──これらすべてが、将来の200店舗、300店舗への展開を見据えた設計となっている。物流DXは「完成」ではなく、「継続的進化と拡大」のプロセスなのだ。
日本の物流が進むべき道
PALと大手食品物流企業の協業は、日本の物流業界が直面する課題──人手不足、環境負荷、業務の非効率性、法令対応──に対する実践的な解答を示している。
重要なのは、「技術導入」だけでなく、「データを活用して両社が共通の目標に向かう協業体制」を構築したことだ。
T-sortという革新的なAGV技術、GTPソリューション、デジタルトラックソリューション──これらは単独の技術ではなく、「アジアNo.1」というビジョンに向けた統合的なエコシステムとして機能している。そして何より、このエコシステムは拡大を前提に設計されている。140店舗という実績は、システムの堅牢性と拡張性を実証している。
物流の未来は、もはや「紙の指示書」を持って歩き回る作業員の姿ではない。
データが流れ、ロボットが動き、人間は本当に価値ある判断と創造に集中する──そして、その恩恵を受ける店舗が、今日も、明日も、確実に増え続けている。それがPALによって実現された「データ駆動型物流」の現在進行形の姿なのだ。